2012年6月28日

軍事革命と自衛隊


軍事革命
 読んだ。一部ちょっとくどいけれど、わかりやすい本だった。

 紅白歌合戦の枕詞に「歌は世につれ、世は歌につれ」という有名なセリフがあります。流行歌は世相を反映し、世相は流行歌に影響されるから、流行歌を聞くことで世相を知ることができるぐらいの意味です。
 同じように軍事技術もまた世相を反映しています。たとえば、自動車が発明された後、自動車産業が活発になった国では戦車を中心に据えたドクトリンが発展しました。同じように航空機産業が活発な国では航空ドクトリンが発展しています。考えてみれば当たり前の話ですが、近代になってから現代までに大きな軍事革命(RMA)がいくつか起こっています。
 それはおおまかにいうと、兵隊を敵地に派遣することで相手領地の消耗を誘う中世的戦争から、相手の軍隊そのものを破壊し消耗を誘うナポレオン的戦争へ、そして後装式ライフル銃の発明によって塹壕戦という名の国家の総力をあげた消耗戦が生まれています。しかし、消耗戦は国力を大幅に損なうので、戦車や飛行機の発明によって可能になった電撃戦というドクトリンが生まれました。これは、敵軍集団の中枢を麻痺させる軍事革命です。そしてそれを発展させる形で核を含む戦略爆撃によって敵軍隊を飛び越して敵国家そのものを麻痺させる軍事革命があらわれました。

 日本は日露戦争終盤から塹壕戦レベルの軍事革命に目覚めました。これは日本の戦争を分析すればわかることですが、日露戦争後の日中戦争、それに対米戦における日本の軍事ドクトリンはやはり塹壕戦レベルです。
 太平洋戦争の日本の戦略目標は、絶対防衛圏に設定した島嶼における守勢防御でアメリカ軍の出血をうながし、その戦果をもって講和の材料としようというものでした。この守勢防御という発想は、海洋版の塹壕戦にあたります。一方、すでに戦略爆撃という軍事革命に目覚めていたアメリカは、日本が設定した塹壕線(絶対防衛圏)を華麗にスルーして、戦略爆撃機と核爆弾で日本国内を直接攻撃し、戦争遂行能力を麻痺させることで日本の降伏を引き出します。じつに日米では戦略思想において2段階の差(塹壕戦>電撃戦>戦略爆撃)があったことになります。
 そして、戦後になりましたが、自衛隊はいまだに塹壕戦ドクトリンに縛られています。それは自衛隊という組織が守勢防御......核をもたない専守防衛を旨とする組織だからです。自衛隊には日本国内で戦うための装備やドクトリンはありますが、他国を攻撃する装備やドクトリンはありません。ましてや敵国中枢を麻痺させる弾道弾のような兵器も持っていません。つまり、ドクトリン的には、日本の軍隊は日露戦争時のドクトリンをいまだに更新できていないのです。

 現代において、すでに世界諸各国は新しい軍事革命を迎え、いまでは敵国の中枢を麻痺させるのに、弾道弾ではなくサイバー攻撃(ハッキング)を用いるようになっています。それが情報化時代の戦争ドクトリンです。
 なぜサイバー攻撃が軍事ドクトリンとして有効なのかといえば、戦略的には弾道弾以上の被害を敵国経済に与えることができ、戦術的にはこちらが消耗することなく火力の集中と密度を高めることができ、敵のそれを防いで消耗を誘うことができるからです。そのへんは長くなるので省略します。興味のある人は軍事革命という本をお読みください。

 しかし、ついこのあいだのことですが、自衛隊もようやく重い腰をあげて、100億円をかけて情報戦用の部署を作ることになりました。自衛隊はそれ以前から日本版RMAに適した装備開発/組織編成/ドクトリンの変更に着手していましたが、ようやく目鼻がついたことになるのでしょう。しかし、日本の仮想敵である米中露北韓の5カ国は、すでに何十年も前からそれ以上の金額をかけて情報戦ドクトリンを育てています。手遅れもいいところですが、なにもしないよりはマシです。

軍事における革命(RMA)への対応の研究/防衛省
http://www.mod.go.jp/j/approach/others/security/it/youkou/07.html
サイバー部隊に100億円 概算要求方針
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120614/plc12061406590006-n1.htm
敵基地攻撃能力の検討必要=森本防衛相
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201206/2012061900785

 ちなみに上記リンクの森本防衛相の敵基地攻撃能力発言は、要するに塹壕ドクトリンをやめて、電撃戦ドクトリンへの移行を示唆しているわけです。これでも日本としては背伸びをしているのですが、まだまだ戦略爆撃ドクトリンにすらたどりつけていないのが困ったところ。
 もし、今回編成されたサイバー部隊が敵国中枢を麻痺させることが目的で編成されているのなら、戦略爆撃ドクトリンの代替手段として編成されたということになり、一気に諸外国に追いつけることになるのですが、その気があったとしてゼロからそこまでの組織に育てるには何十年もかかるはずです......。

 さて、「歌は世につれ、世は歌につれ」で解説したように、軍隊のドクトリンは世相、すなわち社会と連動しています。すでに記したように日露戦争時代から変化のなかった日本の軍事ドクトリンが、現代になってようやく変化をみせはじめました。これは裏を返すと、日露戦争時代から変化のなかった日本社会が変化しはじめているということになります。
 日本が、情報化社会にあわせた社会構造の変革に成功できるのであれば、少子化や不況なども解決することでしょう。それがどの程度の成功をおさめるかは、自衛隊のRMAがどのていど本気なのかを観察することで察することができます。であるならば、自衛隊は日本を守るために、本気で軍事革命をすすめるべきです。

 このどうしようもない日本の苦境を救うことができるのは政治家でも財務官僚でもなく、自衛隊なのです!(キリッ